当テーマは、「何のために読書をするのか」です。

本をあまり読まないという人に読まない理由をたずねると、多いのが「忙しくて時間がないから」という答えです。
なるほど、本を読むというのは、時間がかかる行為、だと多くの方々は認識しているようですね。

一方、「一日に一冊でもたくさん本を読みたい」という人もいます。
こういう考え方はいかにも貧乏性な感じがしないでもありませんが、まあ、限られた人生のなかで、少しでも多くの素晴らしい本に出会いたい、という気持ちなら、わからなくもありません。

実は以前、知り合いにさそわれて「速読訓練所」というところを訪れたことがありました。

インストラクターの方に話を聞くと、速読は大脳生理学や神経医学と密接なかかわりを持っているのだそうです。

本を速く読むためには、まず視野を広げ、一度にたくさんの情報を目に焼き付けることができるようにトレーニングします。
その訓練所では、エクササイズなんかをするような広いスペースに、十数人の人たちが並び、背筋をピーンと伸ばして立ち、譜面台に置かれたテキストを黙読していくのですが、驚いたことにだれもが5秒くらいで見開き2ページを読み終えてしまうのです。
つまり、文章を味わうのではなく、本に書かれた情報を視覚によって脳にインプットするような感じなんですね。

一方で、本はゆっくり読みたいという人もいます。
「バカの壁」でおなじみとなった解剖学者の養老孟司さんなどは、いい本を読むと少しでも長い時間その本の世界に浸っていたい、と思われるそうで、ゆっくりじっくりなめるように文字を追っていくのだそうです。

いささか単純な言い方をすると、速読とは「本を情報の集合体として読む」ことであり、「文章を味わう」行為とは、かけ離れています。

川端康成の『雪國』を1ページ○秒という速さで読んだところで、なんの意味もないでしょう。
しかし、『稼げる株式投資の方法』とか『いますぐできる節約術500』とかいう本なら、わざわざゆっくり読む必要もありません。

そして、もうおわかりでしょうが、現代ベストセラーになる本の多くは、後に挙げた『稼げる〜』『いますぐできる〜』といった指南書、ノウハウ本のたぐいなんですね。
速読訓練所に申込者が殺到するのも、なるほど頷ける話です。

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